概要・諸元 | 1.はじめに 奥津発電所は、岡山県東部を流れる一級河川吉井川水系吉井川の上流域に設置された水路式発電所であり、吉井川取水堰から取水した水および吉井川支流河川から取水して発電する奥津水槽発電所の発電放流水を使用して発電を行っています。 奥津発電所は、1932年(昭和7年)の発電開始から88年が経過し、発電設備全体の経年劣化が進行していることから、設備(調整池、水圧鉄管、水車・発電機等)を一括更新する改修工事を2020年10月から着手し、約2年半の工事期間を経て、2023年3月に運転開始を迎えました。 改修前は調整池に貯留した水により、調整池機能を活用した出力調整運転を行ってきたものの、現状の発電運用や設備の合理化を図るため、調整池機能の廃止を行いました。改修前後の設備諸元を表―1に、発電所位置図を図―1、水系図を図―2に、既設発電所を写真―1に示します。 ![]() ![]() ![]() ![]() (1)導水路改修工事 導水路改修工事では、導水路延長約7.3 kmのうち、改修範囲の途中にある蓋渠を起点として、上流側に約1.6 km、下流側に約1.2 kmの計約2.8kmの改修を実施しました。 改修工法は、通水断面の変化を最小限に抑える工法を検討し、近年、導水路の補強に多く採用されているFRPグリッド工法による全周内巻補強を実施しました。 (2)調整池・水槽改修工事 奥津発電所は1932年(昭和7年)に運転を開始して以降、需要に応じた電力の安定供給を可能とするため、貯水容量約5万m3の調整池を設け、調整池機能を活用した最大使用水量8.69m3/sによる出力調整運転を行ってきましたが、近年の発電運用状況を踏まえた合理的な設備構成とするべく、今回の改修工事で調整池機能を廃止しました。これに伴い、使用水量に応じた水槽を新設するとともに、これまで調整池内へ流入していた奥津水槽発電所からの発電放流水を水槽へ導水する連絡水路を旧調整池内に設置しました。 (3)水圧鉄管取替工事 水圧鉄管取替工事では既設水圧鉄管延長約640mの全面取替えを実施しました。水圧管路は工事現場が狭隘であり、かつ、架空線が近接し、搬入・搬出できる鉄管の延長に制限があったことから、既設の水圧鉄管は、エアプラズマ工法(通電した熱で溶かして鉄管を切断する)により、3m程度に小割にして搬出し、新設の水圧鉄管は工場製作した3m程度の鉄管を現場へ搬入、据付、溶接を繰り返して設置しました。 (4)発電所改修工事 発電所改修工事では、新設する水車・発電機に合わせた設備とするため、既設の発電所基礎および放水庭を撤去し、新たに設置しました。 |
写真1 FRPグリッド設置状況 | 施工は、水路表面を高圧洗浄して下地処理をしたうえで、FRPグリッドの設置、ポリマーセメントモルタル(以下、「PCM」という。)の吹付という順番で実施しました。PCMの吹付は1次吹付、2次吹付の2段階に分けて実施し、1次吹付ではFRPグリッドの厚み2mm分の吹付を行い、吹付後、コテ仕上げによりFRPグリッド格子部の空隙を充填しました。1次吹付をしたPCMが硬化したのち、2次吹付として9mmの吹付厚でPCM吹付を実施。2次吹付後にもコテ仕上げによりPCM表面を平滑化しました。 |
写真2 調整池(改修前) | 調整池は、バットレス式と高架式が複合した全国で唯一の構造であり、「国の登録有形文化財」に登録されています。水槽・連絡水路等の新設により支障となる調整池の一部は撤去する必要があるものの、調整池の文化的価値を考慮し、可能な範囲を残置する計画としました。 |
写真3 調整池(改修後) | 奥津水槽発電所からの発電放流水を水槽へ導水する連絡水路は、基礎盛土材の上にプレキャスト水路(一部、現場打ち)を設置し、水路天端まで埋戻盛土材で盛土しました。盛土材は合計で約8,000m3必要となり、この盛土材には、旧調整池内の堆積土砂を改良し使用することで、堆積土砂の運搬・処分に係るコスト低減を図りました。 |
写真4 水槽完成状況 | 調整池機能の廃止に伴い、発電所の運用方式が変更(調整池式から流れ込み式に変更)となることから水槽を新設しました。 連絡水路と水槽の接続部には2門の制水ゲートを設置し、一方は水槽へ、他方は余水路へ接続しました。これにより、水槽への制水ゲートを閉じて、余水路への制水ゲートを開くことで、奥津水槽発電所を運転したまま奥津発電所での断水作業が可能となります。 |
写真5 水圧鉄管撤去状況 | 水圧管路は工事現場が狭隘でありかつ、架空線が近接し、搬入・搬出できる鉄管の延長に制限があったことから、既設の水圧鉄管は、エアプラズマ工法(通電した熱で溶かして鉄管を切断する)により、3m程度に小割にして搬出しました。 |
写真6 水圧鉄管設置状況 | 新設する水圧鉄管は3m〜6m程度の鉄管を工場製作し、現地で溶接して据え付けを行いました。固定台および小支台は一部を除き既設を流用しました。固定台部への新設水圧鉄管の据付については、既設の水圧鉄管よりも新設の径が小さくなることから、新設を既設の中に通して設置する挿入管としました。 |
写真7 発電所施工状況 | 発電所基礎および放水庭を構築するため、発電所のグラウンドレベルから最大で約10mの深さの掘削を行いました。掘削にあたり土留め工法として地山補強土工法を採用しました。地山補強土工法は、2m程度の深さを掘削した後、法面にコンクリートを吹付け、鉄筋と硬化材の注入により切土法面を補強し、法面補強後さらに下部の掘削・法面補強を繰り返して計画高まで掘削を行う工法です。 |
写真8 発電所施工状況 | 発電所掘削範囲に当初想定していなかったB級相当の硬岩が一部確認され掘削完了時期が1箇月程度遅延し、この遅延解消に向け、当初設置する計画ではなかったタワークレーンを発電所敷地内に設置しました。これにより、土木工事と建築工事の同調実施が可能となり、当初計画どおりの工期内に発電所改修工事を完了することができました。 |
写真9 発電所(改修後) | 奥津発電所本館建物を改修に併せて建替えました。新設する建物は鉄骨構造とし、近接する奥津温泉街と周囲の自然との調和を配慮し、和風でシンプルな外観としました。 |