会誌「電力土木」

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講座

放射性廃棄物処分の現状と技術開発 第 2 回 地質環境長期安定性・地質環境特性

 

濱田 崇臣 (一財)電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門 上席研究員

1. 放射性廃棄物処分における地質環境長期安定性・地質環境特性の意義と研究開発の背景
 前号で紹介した通り,放射性廃棄物の処分の方法は,放射能レベルにより形態が異なる。大局的には,放射能レベルの低い廃棄物ほど,より浅層に処分し,高いレベルの廃棄物ほど,地下深部に処分される。「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」により,高レベル放射性廃棄物の地層処分では,地下300 m 以深に処分される。地層処分は,地下深部に処分することで,?地質環境の長期の安定性を確保し,?廃棄体中の核種を人工材料や地質媒体により閉じ込めることを,意図するものである。ここで言う地層処分事業で確保すべき地質環境の長期の安定性とは,将来に渡って火山活動や断層活動によって処分場を破壊することがないこと,隆起・侵食により,廃棄物が地表に極端に近づくことを避けることである(図1)。また,好ましい地下環境の特性(地質環境特性)として,地下の温度が高くないこと,地下水の動きが遅いこと,水質や岩盤の性質が長期にわたって物理的,化学的に安定な状態に保たれるかという観点が示されている。これら,好ましい地質環境特性とは,上記?の閉じ込め機能を維持する上で有利となる条件である。
 放射性廃棄物処分は,放射能レベルによる処分方法の違いがあるものの,廃棄物を地下に埋め,人間の生活環境から隔離するという共通する概念を持つ。このため,低レベル廃棄物の処分についても,当然のことながら,火山活動や断層活動を避けることを求めている2)。ただし,高レベル放射性廃棄物処分とは異なり,これらの自然現象の将来的な活動の変遷については,考慮の対象に含まれていない。また,当然ながら廃棄体中の核種の閉じ込め機能に関連し,地層処分で好ましいとされる地質環境特性は,低レベル放射性廃棄物においても好ましい。異なるのは,閉じ込め機能の性能レベルと健全に機能が維持される期間の長さである。したがって,地層処分で示されている地質環境特性は,基本的には,低レベル放射性廃棄物の処分でも共通する調査・評価対象となる。
 こうした研究対象のうち,高レベル放射性廃棄物については,前号で紹介した通り,研究開発が,日本原子力研究開発機構を中心とし,電力中央研究所(電中研)を含む関係研究機関により,オールジャパンで連携・協力して進められている3)。研究開発項目は,土木工学技術をはじめとして多岐に渡るが,そのうちの一つとして,地質環境の調査・評価に関する技術が示されている。
 本稿では,放射性廃棄物処分において,調査・評価の対象としている地質環境長期安定性,地質環境特性の事項について概説し,そのうえで,それぞれに対する研究開発を,電中研で実施しているものを中心に紹介する。地質環境の調査・評価に関するもの以外は,次号以降に紹介する予定である。

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