会誌「電力土木」

目次へ戻る

でんたん

第41回 井川発電所(中部電力株式会社)

 

 井川発電所は,最大出力62,000 kW,最大使用水量80 m3/s のダム式発電所で,1957年に運転開始しました。発電所の位置する大井川は,静岡県・長野県・山梨県にまたがる標高3,000 m 級の南アルプスに源を発し,駿河湾まで流れる全長約168 km の大河であり,井川発電所は上流から数えて 7 番目に位置します。
 井川ダムは,大井川水系大井川の中流部に建設された国内初の中空重力式コンクリートダムです。中空重力式コンクリートダムは,コンクリート重力ダムのブロック上流面部幅員を拡大して止水壁を造り,水密を保つという点以外は,外力に対し,岩盤上に立つ,片持梁として抵抗する構造物である点等,コンクリート重力ダムと同様です。同規模の重力式コンクリートダムよりもコンクリートの使用量を減らせることがメリットですが,コンクリートが高価だったため,あるいは交通手段の問題から輸送量を減らすために考案されたダム形式であり,現在ではコンクリートの価格が安くなっていることと型枠が複雑化することによる人件費の増大から新規建設は行われていません。
 井川発電所を含め,大井川上流部の電源開発においては大井川鐵道井川線の存在なしには語ることができません。当時交通の便が悪かった井川の地にダムを建造するためにはまず資材輸送路を確保することが不可欠であるということで,もともと他の発電所・ダム建造のために保有していた千頭駅〜大井川ダムまでの9.7 km の専用軌道を改修するとともに,これを市代駅(現在のアプトいちしろ駅)から井川ダム付近の西山沢まで16.5 km 延長しました。1952年 7 月に着工し,工事従事者の懸命な努力によって1954年 9 月に完成しました。1959年 8 月以降,現在に至るまで中部電力?が保有し,大井川鐵道が運行しています。
 2020年 2 月には中部電力株式会社,大井川鐵道株式会社,株式会社 JTB により,地域活性化および再生可能エネルギー事業の理解獲得を目的として,通常では一般のお客さまは見ることができない「日本初の中空重力式ダムである井川ダム内部」や「日本唯一のアプト式機関車車庫」などを見学できるツアーを開催しました。
 大井川鐵道井川線沿線には「COOL JAPAN AWARD 2019」を受賞した秘境駅「奥大井湖上駅」など,名所がたくさん存在します。また,井川展示館では水力発電のしくみや大井川開発のあゆみについて楽しく学ぶことができます。是非一度観光にお越しください。



【井川発電所】
最大出力:62,000 kW
最大使用水量:80 m3/s
最大有効落差:51.3 m
【井川ダム】
中空重力式コンクリート
ダム
堤 高:103.6 m
堤 長:243.0 m


【アクセス】 JR 静岡駅より井川発電所まで車で120分


【写真】
1. 井川発電所      2. 井川ダム
3. 建設中の井川ダム   4. 井川ダム内部の空洞
5. 大井川鐵道井川線(アプト式電気機関車)
6. 奥大井湖上駅     7. 井川展示館

     
     
ページのトップへ