会誌「電力土木」

目次へ戻る

解説

最近の技術用語(176) 省合金二相ステンレス鋼(NSSC2120・ASTM S32304)/自己昇降式台船(SEP 船)/グリーンレーザースキャナ

 

省合金二相ステンレス鋼(NSSC2120・ASTM S32304)
 「省合金二相ステンレス鋼(NSSC2120・ASTM S32304)」とは,高クロムに適量のニッケルを添加してオーステナイトとフェライトの二相組織とした新しいステンレス鋼であり,ダム・堰・水門・排水機場などの河川施設において,現在使用されている SUS304 等の代替品として開発されたものである。
 従来ステンレス鋼(SUS304 等)と比して,クロム量を高め,低酸素化を図ったことにより耐食性が向上し,微細な二相組織としたことで高強度及び高硬度を実現したステレンス鋼であり,ライフサイクルコストなどの低減が可能。
 省合金二相ステンレス鋼の特徴を以下に示す。
 (1) 従来型ステンレス鋼(SUS304 等)との比較
 ・微細な二相組織とすることで,従来鋼に対し,約 2 倍の強度を有している。
 ・ニッケルやモリブデンなどのレアメタルを削減でき,価格が安定している。
 (2) 期待できる効果
 ・長期的な耐久性に優れ,再塗装が不要となるため,ライフサイクルコストを低減できる。
 ・高強度を活かし,設備を軽量設計できるため,材料費など初期投資の抑制が可能となる。
 ・高強度と高硬度により摩耗量が減少し,設備の耐久性の向上に貢献できる。

出典:けんせつ Plaza
   http://www.kensetsu-plaza.com/


*     *     *     *     *     *     *


自己昇降式台船(SEP 船)
 自己昇降式台船は,(Self Elevating Platform:SEP),セップとも呼ばれ,プラットフォーム(台船)を,昇降用脚(レグまたはスパッドという。)で,波の届かない所まで上昇,保持し,風や波浪による船体の動揺を減少させ,作業効率,施工精度を高める作業船である。杭の打設や洋上風車の設置工事等に使われる。
 我が国では,2019年 4 月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」が施行され,洋上風力発電市場の急速な拡大が見込まれる。また世界で洋上風車の大型化が進む中,日本では施工に対応できる SEP 船が不足しており,大手総合建設業者(ゼネコン)による SEP 船の建造が活発化している。

参 考 文 献
・日本マリンエンジニアリング学会誌 第53巻 6 号 p65-p72(2018)
・一般社団法人 日本作業船協会 HP http://www.s-jwa.or.jp/workvessels/set21.html


グリーンレーザースキャナ
 グリーンレーザースキャナとは,2 種類のレーザー光を照射し,水面反射する近赤外パルスレーザーの往復時間と,水を透過し水底で反射するグリーンパルスレーザーの往復時間差から水深を算出して,陸上と水底の地形を同時に 3 次元計測する装置である。1)2)
 従来の測量では,地上と水底を別々の方法で計測して結果を合成する必要があり,時間と手間を要していた。しかし,グリーンレーザースキャナを使用することで,陸上と水底を同時に測量できるため,作業が効率的になるとともに,精度の高い測量データを取得することが可能となる。3)
 三次元データによる計測にあたっては,有人航空機に搭載する航空レーザー測深機(ALB:Airborne Laser Bathymetry)により実施していたが,国土交通省が「革新的河川管理プロジェクト(第 1 弾)」として,大幅な小型化・軽量化を実現した「陸上・水中レーザードローン」を民間企業と開発した。これにより,洪水による被災箇所など限定的な範囲を迅速かつ効率的に,三次元データによる計測が可能となり,維持管理の高度化・高精度化が可能となった。また,持ち運びが容易であり,被災地域への応援でも効果が発揮できる。1)その他,
・河川維持管理として,堤防から河川敷,河道を面的に繋がった 3 次元モデルとして把握
・港湾構造物(堤防や離岸堤,消波ブロックなど)を対象とした緻密な測量をドローン,広域の計測を ALB と使い分けることで,目的や範囲に応じた管理への活用
・土木・港湾工事における ICT 施工のための測量
などの幅広い分野で今後の活躍が期待される技術である。4)

参 考 文 献
1) 「陸上・水中レーザードローン」現場実装へ 迅速かつ効率的に,川の中の地形が見えるように〜災害時の対応など河川管理の高度化を図ります〜(平成31年 2 月 1 日 国土交通省 水管理・国土保全局河川環境課)https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo04_hh_000089.html
2) 国土交通省 革新的河川管理プロジェクト「陸上・水中レーザードローン」グリーンレーザースキャナシステム開発レポート(株式会社パスコ,株式会社アミューズワンセルフ)
3) 水中を測量できる!グリーンレーザースキャナ搭載のドローンとは?(ドローンスクールナビ HP)https://drone-school-navi.com/news/水中を測量できる!グリーンレーザースキャナ搭/
4) ?パスコ HP https://www.pasco.co.jp/products/dronegreenlaser/


*     *     *     *     *     *     *


図―1 強度の比較

写真―1 800 t 吊 SEP 型多目的起重機船「CP-8001」
(出典:一般社団法人 日本作業船協会 HP)
写真説明:本船は,ジャパンマリンユナイテッド?が建造し,五洋建設?が所有する,我が国初の大型クレーンを搭載した SEP 船である。長尺レグを使用することにより水深50 m での作業が可能,自動船位保持装置を装備,毎分40 cm の速度で連続したジャッキアップが可能である。120人分の居住施設,ヘリデッキを装備している。

図―1 河川の三次元計測(イメージ)1)

     
ページのトップへ