会誌「電力土木」

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でんたん

第34回 奈良県吉野の自然に囲まれた発電所;吉野発電所(関西電力株式会社)

 

 吉野発電所は,奈良県中部の吉野町に位置し大正12年(1923年)に運開,今年で97年を迎えた大変歴史のある流れ込み式の水力発電所(2700 kW)です。元々は明治38年に吉野水力電気?が水利権を申請し,その後大和電気?,大正水力電気?へと譲渡され資金不足等により当時大手であった宇治川電気?へと引継がれ,運開に至っています。運開時の出力は1661 kW で1940年に2330 kW へ,その後関西配電?を経て関西電力?へ引継がれた後の1998年に現在の出力に増強されました。
 吉野発電所は,奈良県立吉野川・津風呂自然公園内に位置しており,改修工事では風光明媚な中で法令に則った作業を行っています。近年こそ取水えん堤上流部に治水用の大滝ダムが建設され洪水被害が低減されていますが,この大滝ダム建設のきっかけとなった1959年の伊勢湾台風では大打撃を受け,えん堤地点は右岸取付部の地山が侵食されたことで復旧はえん堤長を約40 m 延長し元々のえん堤長の約 2 倍の長さとなっています。また導水路の一部はコンクリート製の 3 連アーチ橋で造られた水路橋が設けられており,その景観から地元の風水百珍にも選ばれています。発電所がある紀の川を奈良県では吉野川と呼んでいますが,1957年までは上流から木材を組んだ筏を流しており,流路を短縮するため導水路が使用されていました。これにより取水口は通常の側方取水方式ではなく川の流れを直接取水できるよう流水方向に設けられ,水路を通った筏は発電所上部の水槽より流筏路と呼ばれる水路を経て河川に戻されます。また吉野川は鮎でも有名であり地元では桜鮎の名で親しまれていますが,えん堤が出来たことにより鮎の遡上に支障を来たさないようえん堤には階段式魚道が設けられています。近年の河川環境への関心に伴い現魚道に加えて学識経験者の知見を踏まえ,えん堤越流部には玉石を配置し自然環境に配慮すると共に遡上効果を高めた魚道を併せて配置しています。
 発電所下流部には太閤秀吉も花見をされた桜で有名な吉野山があり,その桜の数は 3 万本にも及ぶと言われており 4 月初旬から 4 月末にかけての桜のシーズンには花見客で大変賑わっています。また吉野山はユネスコ世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録されており信仰の山としても親しまれています。
 発電所上流部には,水一切を司る神様で水利の神として,又は雨の神として信仰される「丹生川上神社(中社)」があり,特に 6 月の水神祭と10月の例祭は全国より水を生業とする多数の崇敬者が参集し,水の神様に感謝,事業の発展,繁栄を祈願する祭として知られています。その拝殿には昭和38年の例祭当日,東京電力?,関西電力?より奉納された欅の一枚板に彫られた白馬,黒馬一対の絵馬が掲げられています。
 吉野発電所とその近傍の悠久の歴史や吉野の大自然を感じに,是非一度観光にお越し下さい。



【吉野発電所】
奈良県吉野郡吉野町
大字楢井892番地
最大許可出力 2700 kW
最大使用水量 13.357 m3/s
最大有効落差 23.962 m
営業運転開始 大正12年 1 月21日

【アクセス】近鉄吉野線 大和上市駅から車で約10分

【写真】 ? 吉野発電所本館    ? 吉野発電所 2 号水路橋
? 吉野発電所矢治えん堤 ? 吉野山の千本桜
? 丹生川上神社の絵馬  ? 吉野名物「柿の葉ずし」

→次回の「でんたん」は北海道を探訪します。お楽しみに!

     
     
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