会誌「電力土木」

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解説

最近の技術用語(172) 潮流・海流発電/異常洪水時防災操作/デザインビルド方式

 

潮流・海流発電
 海洋のさまざまなエネルギー(潮流,海流,波力,大洋温度差等)による発電技術は,新たな再生可能エネルギーとして世界的に期待されている。
 潮流は,太陽,地球,月などの天体運動に基づく潮汐力によって発生し,その変動は規則正しく起こるため,信頼性の高いエネルギー源である。また,海流は,主に海面上を吹く風によって発生する流れであり,地球の自転の影響によって大洋の西側で流れが強化される。日本の沿岸付近には,強い海流である黒潮が年間を通じて安定して流れており,世界的にも有数のエネルギー源である。
 潮流・海流発電は,これらの潮流・海流のエネルギーを電力に変える発電方式であり,エネルギーを取り出す方法としては,タービンを使って回転運動へと変換するか,往復運動へと変換(レシプロ式)するか,のどちらかである。海外での潮流・海流発電装置の開発例を見ると,その多くで水平軸式タービンを採用している。設置想定海域における平均流速が高く,水深も十分である限り大型化が可能で,エネルギー変換効率が高い水平軸式の採用は合理的である。一方で,海水による腐食や水圧など機器にとって厳しい環境,機器故障時のメンテナンス性,船舶航路などを考慮した設置場所,水産業との共生などに対する技術課題解決や配慮が必要である。
 NEDO と?IHI は,2017年 8 月に鹿児島県口之島沖で,100 kW 規模の海流発電としては世界初となる水中浮遊式海流発電システムの実証実験を実施・完了した。NEDO は,エネルギーが強く変動が少ない海流エネルギーが,新しい再生可能エネルギー源として期待できるため,2020年以降に水中浮遊式海流発電システムの実用化を目指している。

参 考 文 献
・国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 HP,<https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100824.html>(参照2019/8/21)
・潮流・海流発電,スマートプロセス学会誌 第 3 巻第 2 号(2014年 3 月)
・潮流・海流発電について,日本マリンエンジニアリング学会誌 第50巻第 1 号(2015)



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異常洪水時防災操作
 ゲートなど機械式放流施設を持っているダムにおいて,操作規則等の本文で定めた「本則操作」による洪水調節を続けた場合に,貯水位が洪水時最高水位を超えることが予測される場合,操作規則等のただし書きの規定により,貯水位に応じてゲートを操作し,放流量を流入量まで増加させる操作を「異常洪水時防災操作」という。
 従来は「ただし書き操作」と呼ばれていたが,平成23年 4 月 1 日に「異常洪水時防災操作」という用語に見直しされた。

参 考 文 献
国土交通省 川の防災情報 HP
https://www.river.go.jp/kawabou/reference/index10.html
国土交通省 四国地方整備局 那賀川河川事務所 HP
http://www.skr.mlit.go.jp/nakagawa/dam/control/pdf/damsousa_q2.pdf
国土交通省:ダム操作に関する用語等の見直しについて(改訂)
https://www.mlit.go.jp/river/dam/main/sousa/yougo110401.pdf
角哲也:ダムの洪水調節効果と異常洪水時防災操作の課題,消防防災の科学,No. 136(2019. 春号),pp 19-23.
https://www.isad.or.jp/information_provision/information_provision/no136/


デザインビルド方式
 デザインビルド方式は,設計・施工一括発注方式とも呼ばれ,「公共工事の品質確保に関する法律の一部を改正する法律」の基本方針(品確法基本方針)に示された多様な入札契約方式のひとつ(平成26年 9 月30日閣議決定)。
 「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン」(平成27年 5 月 国土交通省)において,設計・施工一括発注方式は,「構造物の構造形式や主要諸元も含めた設計を,施工と一括して発注する方式」と定義されている。
 日本の公共事業においても一般的な発注方式である設計・施工分離方式に対して,デザインビルド方式では,構造物の構造形式や主要諸元を含めて,当該工事の受注者による提案・設計が可能となる。例えば,橋梁工事においては,コンクリート橋とするか鋼橋とするかも含めて,当該工事の受注者が提案し,発注者が決定することも可能となるため,受注者が保有する新技術を生かした設計が可能になり,コスト削減が期待できる。
 「設計・施工一括発注方式導入検討委員会報告書」(平成13年 3 月)によると,デザインビルド方式が適している工事として,
?施工方法等によって設計内容が大きく変わるなど,発注者が設計内容を 1 つの案に決められず,施工技術に特に精通した者の技術力を得て設計することが必要となる場合
?設備工事等で設計と製造が密接不可分な場合
?完成までに非常に厳しい工程を強いられ,設計を終えてから工事を発注するという時間的猶予が無い場合
?工事発注用の設計図書として事前に詳細設計レベルまで準備しない場合
が挙げられている。
 一方,下記に類する場合は,設計・施工を一括で発注すると,問題が発生する可能性の高いことから,当面,デザインビルド方式を適用しないこととされている。
?用地買収が未完了等により着工時期が確定していない場合
?受注者側で負担しなければならないリスクが過度に大きい場合
?工事規模が小さいため,入札参加者にとって技術提案に要する費用が過度な負担となる場合
?発注者が性能や仕様に関する概念を明確に設定できない場合

参 考 文 献
公共工事の品質確保の促進に関する法律 運用指針の策定について
https://www.mlit.go.jp/common/001054543.pdf
公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン(平成27年 5 月 国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001089933.pdf
設計・施工一括発注方式導入検討委員会報告書(平成13年 3 月 設計・施工一括発注方式導入検討委員会)
https://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/keiyaku/ikkatu/kisya2.pdf



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図 実証試験の装置構成(出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構 HP)

   
     
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