会誌「電力土木」

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巻頭言

平成から令和にバトンはつながれた

 

小田 満広

北陸電力? 執行役員土木部長

 今年の北陸の冬は雪が少なかったが,3 月から 4 月にかけては意外に寒い日が続き,弊社の水瓶である有峰ダム周辺の雪はあまり解けることもなく,4 月中頃には平年とほぼ同じ量に並んだ。
 その 4 月に約30年ぶりの改元で,平成に代わる新元号が「令和」となることが発表された。この元号は,「前向きで明るい未来を切り拓いていく」との願いが込められたものとのことであり,国全体で明るい未来の幕開けを待ち望んでいる。

 元号が変わる以前より,我々電力土木技術者を取り巻く環境は大きく変化している。我が国全体としては人口減少の問題があり,電力業界全体としては2020年 4 月に予定されている送配電の分社化や,小売りの全面自由化による競争の激化の問題がある。また,エネルギー政策としては,パリ協定による2030年度の温室効果ガス抑制の達成目標があり,我々を取り巻く環境の変化を挙げ出すと際限がなくなる。
 しかしながら,我々電力土木技術者には,このような環境の変化にも適応した上で,しっかりと技術と設備を継承していくことが求められている。以下では,これからの令和の時代でも,引き続き注視すべき我々電力土木技術者を取り巻く環境の変化とその対応について,記述してみたい。

■働き方改革
 我が国全体の問題として,人口減少問題が大きな社会問題となっている。
 日本の総人口は,2008年に約 1 億2800万人のピークに達し,その後,減少を続けている。最新のデータでは2018年の総人口は,約 1 億2600万人で,年間あたりの総人口の減少数は約45万人と推定されている。
 私が現在住んでいる富山市の人口は,約42万人であり,これから毎年,富山市の人口が丸ごといなくなっていくと考えると,人口減少の大きさが実感できる。

 少子化に伴う総人口の減少と高齢化の進展は,そのまま労働人口の減少に繋がっている。そこで,昨今の「働き方改革」が重要となってくる。無理のない柔軟な勤務体系とすることによる子育て世代の女性や高齢者等の人材の活用や,さらには,「抜本的な仕事の改善と新たな成長事業の開拓」を通した生産性の高い働き方への転換が必要となっている。
 前者については,我が国全体の年齢構成の変化は,我々電力会社の中にも影響を及ぼしており,その結果,土木建築部門では女性技術者と60歳以上のベテラン技術者の比重が以前にも増して大きくなってきている。建設から保守までの多くの経験を持つベテラン技術者から業務のポイントがどこにあるのか等をしっかりと引き継いだ上で,女性技術者を含めた,若手,中堅,ベテラン技術者がしっかり融合して業務を進めていくことが,ひいては生産性向上にも繋がっていくと思われる。
 また,後者については,例えば,水力発電所導水路の点検における画像解析技術の適用や AI を活用した出水予測と洪水終了時の正確な判断に基づく発電電力量の増加への取組みなど,仕事の改善を通じて生産性の向上に確実に繋がっていくものと期待している。

 日本における 1 人当たり労働生産性は,OECD 加盟36カ国中21位であり主要先進 7 カ国中最も低い値となっている。労働生産性(生み出した付加価値額/労働投入量)の向上については,仕事を「やめる・減らす」改善や,AI や ICT 等を活用した「変える」改善による労働時間の削減だけではなく,余った人的資源を新たな成長事業に振り分け,分子である付加価値額を増やしていく試みが今後是非とも必要となってくる。

 少し話は変わるが,最近の経済の好景気とも相まって,新入社員の採用が年々難しくなってきている。かつての就職人気企業ランキングで上位に位置し,これまで日本経済をけん引してきた大手メーカー・インフラ関連企業が軒並みランクを落としている。優秀な学生は,安定性やネームバリューよりも,得られるスキル・経験に重きを置いているようにも見える。学生に選ばれる魅力ある電力会社,その中でも土木建築部門は如何にあるべきか。新たな成長事業を開拓し面白い仕事が経験できる企業・部門に変わっていくことも必要である。

■水力発電の経年化対応
 我が国の水力発電開発の幕開けは,今から120年以上前であり,老朽化した水力発電所は多い。
 変化の激しい時代で,数十年先を想定するのは難しいが,純国産で CO2 を排出しない水力発電は,10年から20年先も間違いなく重要な電源として位置づけられていると考えている。
 弊社の水力発電所は,関連会社の分も含めて約140か所あり,これらの発電所で年間約60億 kWh 以上の発電を行っている。このうち,開発から80年以上経過した発電所が約50か所あるが,これらの発電所いずれも現役で発電し続けており,引き続き今後の重要性も認識した上で,長期を見通し,順次,改修を行っていくことが必要である。

 昨年は,自然災害が相次いだが,弊社の水力発電所においては,幸いこれまで大きな被害もなく,全国トップの水力発電比率約24%を確保できている。引き続き,北陸の豊かな水資源を有効に活用した水力発電の維持・向上を図るための地道な保守を継続していく必要がある。しかしながら,電力自由化時代の今,これまでどおりの考えに基づく開発・保守業務が成り立っていくとは考え難く,より一層のコスト低減策を進めていくことが必要である。
 また,土木建築面の保守と並行して,引き続き,水車ランナーや発電機の交換などの既存設備の改修や性能余裕の活用による出力の増強などに取り組み,発電の生産性向上にも努めていかなければならない。

■原子力発電所の再稼働
 経団連は,4 月,エネルギー政策の原則である「S+3E」を確保し,世界の電力事業が向かっている脱炭素化等に対応していくためには,電力投資への好循環を創出する必要があると提言している。特に,原子力は脱炭素化を目指す上で不可欠なエネルギー源であるとし,既設炉の迅速な再稼働の必要性を強調している。
 また,電力中央研究所は,温室効果ガスを2050年までに80%削減する政府目標に必要なエネルギー需給の分析結果を示している。基準年を2013年とし経済成長率0.5%を仮定とした場合,最大限の再生可能エネルギーを導入したとしても,2900万 kW の原子力発電所が必要と指摘した。そして,60年運転と高設備利用率を前提としても既設炉だけでは足りず,新増設が不可欠としている。
 3.11東日本大震災後,福島のような事故を絶対に起こさないために,全電力は速やかに「緊急安全対策」を実施し,現在も引き続きさらに「安全性向上工事」を進めている。また,並行して,新規制基準適合性審査が進められているが,上記の目標を達成するには今後も更なる努力が今後必要である。

 また,再稼働については,弊社の場合,さらに難題が控えている。「敷地内断層問題」である。これについては,建設当時,審査における現地調査で大学や研究機関の地質学の先生方が当時しか見ることのできない地質データを直接確認して評価した結果であり,発電所が出来上がっている現時点では取得できるデータが限られ,それをもう一度証明することはなかなか難しいという状況である。しかし,我々としては,時間がかかるかもしれないが,可能な限りのデータを取得し,審査資料の論理性・客観性・分かり易さをさらに向上させ,地元の皆様にも安心して頂く発電所を目指し,今後も審査に的確に対応していきたい。

■おわりに
 今年の本屋大賞「そして,バトンは渡された」を読んだ。
 血のつながりのない親の間をリレーされて育った主人公の高校生から社会人に至るまでが,過去の経緯も織り混ぜながら描かれている。子を思う親の思いが感じられる心温まる作品である。
 会社という組織において,我々は約40年を過ごすことになる。それが長いか短いかは別にして,先達が築いてきた電気事業における土木建築業務を守り育てながら,その技術・知識を未来に継承し,さらに自由化時代における新たな成長事業の開拓を行っていくなど今我々がなすべきことを着実に行いたいと思う。そして,「平成」から「令和」になったように,次の若い人へとバトンをしっかりとつないでいきたい。
(令和元年 5 月10日記)

     
     
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