会誌「電力土木」

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でんたん

第20回 秘境に佇む小口川第三発電所と真立ダム(北陸電力株式会社)

 

富山県中央部を流れる一級河川常願寺川水系は,北陸電力の水力発電全体の 4 割強に当たる約82万 kW の発電設備が集まる一大電源地帯となっています。常願寺川の支流には,落差日本一の称名滝がある称名川,当社最大の有峰ダムがある和田川,そして,大正から昭和初期にかけて,第一,第二,第三発電所の順に水力開発が行われた小口川があります。
 今回ご紹介するのは,当社全水力131発電所のうち,河川維持流量発電所を除いて唯一車両のアクセスができない小口川第三発電所(1931年運転開始,出力14,500 kW)と,発電所直下にある真立ダム(1929年竣工)です。
 小口川第三発電所は,小口川最上流域に建設された祐延ダム(1931年竣工)を本取水口とし,現在も国内最高の有効落差620 m を誇っており,水圧鉄管の延長は1,521 m にもなります。祐延ダムは,堤高約45 m のコンクリート重力式ダムです。常時満水位は,北陸地方では黒部ダムに次ぐ約1,400 m の高さですが,全集水面積は 7 km2 程しかなく主に融雪期と梅雨期のダム流入を貯水することにより年間運用しています。
 真立ダムは,小口川第二発電所(1929年運転開始,出力5,600 kW)の取水ダムで,国内に 6 基しか現存しないとされるバッドレスダムです。当社は真立ダムと真川調整池ダム(1930年竣工)の 2 基のバットレスダムを管理しています。
 さて,発電所とダムが建設された頃の小口川は,人道すらない未開の地であり,牛馬による物資運搬等大変な難工事だったと伝えられています。平成 6 年に有峰林道小口川線が全線開通しましたが,第三発電所と真立ダムは小口川の深い渓谷に隔てられ,結局,車両交通がかないませんでした。
 徒歩によるアクセスは,まず第二発電所からサージタンク地点までの水圧鉄管路を230 m 程登りさらに水平歩道を約 4 km 進むと,ようやく国有林内に佇む第三発電所と真立ダムに到着します。水平歩道には建設時のトロッコを彷彿させる軌道が敷設されており,ヘリコプターに頼らない資機材輸送設備として今も重用しています。
 ところで,第二,三発電所はまもなく100歳を迎えます。ここの巡視点検は,祐延ダムから第二発電所までの標高差900 m,延長約10 km に及び,体力的にとても厳しいものです。しかし,物部博士の設計法を用いた真立・祐延ダムや上下部選択式取水口等,当時の最新技術を導入し難題を乗り越えた先達の苦労を想うと,我々に託された設備をしっかり後世へ引き継いでいかねばと身が引き締まる思いになります。
 富山では「天然の生け簀」とも称される富山湾から,富士
山・白山と並ぶ日本三霊山の立山まで,まさに「海抜 0 m から3,000 m まで」の大パノラマを眼前にすることができます。北陸はこれから雪のシーズンを迎えます。皆様,北陸新幹線で近くなった富山へ,寒ブリやスワイガニなどのグルメ料理を堪能しながら白のパノラマを見に「こら〜れ」ませ。


【小口川第三 P/S】
出  力:14,500 kW
使用水量:2.78 m3/s
有効落差:620.02 m
発電開始:1931年11月

【真立ダム】
堤  高:21.80 m
型  式:バッドレス式
貯水容量:26千 m3
竣  工:1929年 4 月


【アクセス】
 JR 富山駅より小口川第二 P/S まで車で70分さらに第三 P/S まで徒歩80分

【写真】
1. 林道からの遠景  2. 小口川第三 P/S  3. 真立ダム
4. 祐延ダム   5. 水圧管路巡視状況   6. 軌道運搬の状況

次回の「でんたん」は中部地方を探訪します。お楽しみに!

     
     
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