会誌「電力土木」

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でんたん

第17回 一ノ瀬発電所丸沼ダム(東京ホールディングス株式会社)

 

でんたん


 群馬県片品村の標高1430 m の位置にある東京電力ホールディングス?の「一ノ瀬発電所丸沼ダム」は,利根川水系大滝川の上流域に,当時の上毛電力?が昭和 6 年(1931年)に建設した発電用のダムで,昭和初期に全国で 8 基のみ建設されたバットレスダムです。バットレスとは,遮水壁を柱と梁で支える構造であり,世界的にも珍しく,我が国では大正から昭和初期の十数年間だけに建設された特異な形式で,現存するのは 6 基のみです。
 ダム建設時は,写真からわかるように,人件費に対してセメントなどの材料費がまだ高価な物であった頃,資材節約を目的として,コンクリートの使用量が少なく(重力式比35%〜50%)経済的なダムとして考えられていました。しかし実際施工してみると,コンクリート柱と梁の複雑な構造であること,人件費が重力式ダムと大差ないこと,運用後の経年的な漏水があることから,国内では昭和12年(1937)以後は採用されませんでした。
 さらに丸沼地域は山岳地であり,冬季には約 3 m の積雪下,気温も零下20℃以下になるため,凍害が発生しやすいこと,戦中の産業増産のため不十分なメンテナンスの下で酷使されたことから,当初の遮水壁の上にもう一枚の遮水壁を取り付ける等の大規模な補修工事が行われ,現在に至っています。
 丸沼ダムは,昭和初期の我が国の土木建設技術が,世界水準を超えて先進的な技術開発に挑戦した代表例とも言え,厳しい環境下で80年以上に亘り,安定した電気を送り続けています。さらに,バットレス式として希少性が高く,かつ堤高,湛水面積,総貯水容量も国内最大を誇るため,平成12年(2001年)には土木学会から土木学会選奨土木遺産2001に選ばれています。更に平成15年12月に発電用のダムとしてはじめて国の重要文化財として指定されています。
 丸沼は,日光白根山から流出した溶岩の堰き止めによって形成された自然沼であり,四方を取り囲むブナや白樺などの原生林の中に沼が連続しており,湖面は静寂に包まれ神秘的です。一軒宿は,営業期間は限られますが,避暑地として人気が高く,新緑や紅葉の季節は最高です。周辺環境もすばらしいため,日光国立公園に指定されています。この地域は,日光を結ぶ国道120号線沿いにあるためアクセスもよく,リゾート地として沼周辺はイワナ,サクラマス,ニジマスなどの釣り客や冬はスキー客で賑わっていますので,近くにお越しの際は,是非お立ち寄りください。


【発電所概要】
[一ノ瀬発電所]
群馬県利根郡片品村
許可出力10,700 kW
有効落差281.30 m

[丸沼ダム]
バットレスダム
堤高:32.12 m 堤頂長:88.23 m
有効貯水容量:11,500千 m3
利用水深:28 m


【アクセス】
JR 上越線 沼田駅より約40 km

【写真】
?丸沼ダム(遠景)       ?丸沼ダム(近景)
?ダム背面の施工状況(建設時) ?ダム全面の施工状況(建設時)
?堤体基礎コンクリート打設状況(建設時)
?連絡水路管敷設状況(建設時)

→次回の「でんたん」は中国地方を探訪します。お楽しみに!

     
     
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