会誌「電力土木」

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巻頭言

石炭灰の有効活用は電力土木技術者の責務である!

 

山田  恭平

中国電力? 執行役員 電源事業本部部長(電源土木)

中国電力は石炭灰の20%を再生材商品として販売しています。
  当社では年間70万トンの石炭灰発生量のうち14万トンを再生販売しており,売上高は 1 億9000万円程度となっています。2003年から本格的な販売に乗り出し,現在では園芸用材として 2 万トン,軽量盛土材として 4 万トン,添加材として 2 万トン,環境浄化材として 6 万トンを販売しています。今後も拡販に努め40%以上の販売を目指していきます。

石炭灰は 1 億年前の樹の灰で,天然由来のミネラルです。
  石炭は 1 億年以上前の植物が炭化して硬化した植物化石です。石炭灰とは,その植物化石をミルで細粉化し,高温で燃焼し,残った無機物(すなわちミネラル)です。広島大学との研究により,草木灰と石炭灰との比較を行い,生活の中で生産が途絶える草木灰の代わりに,有機物の循環を助けるミネラル供給灰として,石炭灰が期待されることを明らかにしました。すなわち,石炭灰は廃棄物ですが,自然由来の灰で,安心して利用できます。雑多なものが入ったゴミ焼却灰とは根本的に違います。

江戸時代において灰は商品であり,完全リサイクルしていました。
  大都会江戸で住民たちが大量に生産していた貴重な物資が灰です。灰は「灰買い」という専門の商人が定期的にやってきて,ちゃんとお金を払って買っていきました。買い集めた灰は灰問屋が引き取りました。灰買いというビジネスが十分成り立ったのです。灰は天然の化学薬品としてびっくりするほど広い使い道がありました。主な用途は,カリ肥料,酒造,製紙,繊維,染色,釉薬,洗剤等々です1)。

石炭灰はリサイクルできます。何故捨てるの。もったいない。未利用資材としての活用を!
  石炭灰有効利用の拡大のためには,石炭灰が持つ「産業廃棄物」という印象の払拭が必要です。自然環境改善への貢献を PR するほか,「これまで使われていなかっただけ」という意味を込めた「未利用資材」といったネーミングの使用でイメージ転換をはかりたいと考えています。

フライアッシュも造粒固化すれば立派な商品になります。
  一般的に石炭灰は,海の埋立材料,セメントの粘土代替材として利用されています。当社は瀬戸内海に面しており埋立場所の確保が困難状況にあり,2000年より石炭灰にセメントと水を少し混ぜて造粒し,工事用海砂として商品化を行っています。背景には瀬戸内海での海砂採取禁止の声が大きかったこともあります。護岸の耐震補強等の地盤改良等で官公庁を中心に採用していただき,海砂代替材として購入していただいています。
 石炭灰が廃棄物由来であるため,製品の環境基準を厳守するとともに,環境モニタリングを実施し,発注者に安心していただいています。発注者様から「蟹が増えた,藻がはえた」とか「環境面からマイナスではなくプラスなのではないか」という声もあり,環境性能について大学等と研究を実施しています。

石炭灰には活性炭のような効果があり,浄化効果があります。
  石炭灰は内部の微細な孔により「砂より軽い」,「吸水性が高い」,「表面積が大きい」などの特徴があります。また,優れた吸着性も有することから,悪臭の原因である硫化水素や赤潮の原因である窒素・リンの水中への溶出を抑制することにより,生物生息の環境が良くなります。生物が増えることでヘドロに含まれる有機物の分解が促進されますので,結果として水がきれいになっていきます。これらの優れた土質・水質改善性能を踏まえ,海域沿岸,河口底質の環境改善,港湾の地盤改良に実績があり,その効果は「環境省環境技術実証事業(ETV)」において実証済み技術として認められています。

造粒固化した石炭灰は軽いのでヘドロをキャッピングする効果があります。
  スラグ等の建設副産物にくらべ軽量であるため,高含水であるヘドロに潜り込みにくいという性質があります。悪臭を発するヘドロをキャッピングすることにより,悪臭発生を抑制します。なお,事業へ適用する際の指針は,「石炭灰造粒物による底質改善手法の手引き,平成25年 3 月(国土交通省中国地方整備局広島港湾空港技術調査事務所発行)」に示されています。

造粒固化による弱アルカリは,さらなる浄化効果が期待できます。
  Hi ビーズの造粒固化にはセメントを使用しており,弱アルカリの性質を示しますが,これにより底泥からの栄養塩類の溶出抑制が図られます。また,油脂類が,若干ながらの乳化作用により,生物に消費されやすくなり,バイオフィルムを形成し,水質改善に資すると考えられます。

石炭灰で海をきれいに。しゅんせつ窪地を救いましょう。
  高度経済成長時期に大量の海砂を採取した海域ではしゅんせつ窪地が大きな問題となっています。島根県の中海でも窪地にたまった大量のヘドロから窒素やリンが溶出して赤潮の原因になり,赤潮で生物が死滅してヘドロとして堆積する環境劣化のスパイラルが憂慮されています。当社は地元 NPO の中海自然再生協議会の事業に協力して,Hi ビーズで窪地を埋戻し,硫化水素の発生を抑制する効果と貧酸素化の軽減を確認しています。(右写真)
 もちろん,海砂代替材である Hi ビーズ利用によって海砂採取が減り,海域生物環境が保全される効果は大きいと考えています。

石炭灰を有効利用することは電力土木技術者の責務です。
  電力関係者にとって発電から発生する廃棄物である石炭灰の有効活用は大きな課題です。今後とも発電の主力である石炭火力が循環型社会に適応できるように,電力の皆様で課題を共有しましょう。

謝辞:これまでの石炭灰研究に多大なる貢献をいただいている広島大学日比野先生に謝意を表します。
参考文献:1) 小泉武夫:灰の文化誌1984.12ほか

     
     
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