会誌「電力土木」

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講座

ロシアと中国の原子力開発動向

 

原  泰斗

(一社)海外電力調査会 調査第一部 原子力グループ 研究員

1. 概要
 ロシアと中国は,そのエネルギー政策の一つとして,国内での原子力開発推進に加えて原子炉の輸出を掲げ,ともに国営の原子力企業が,その政策実現に努めている。ロシアは,国内をはじめ,旧ソ連に属した独立国家共同体(CIS)や東欧において豊富な建設実績を有し,ロシア製の加圧水型原子炉(PWR)である VVER を国外に多数輸出している。
 一方,中国は,原子炉の導入国として後発の位置にあるが,多様な炉型を輸入し,国産原子力技術を培ってきた。2016年 1 月現在,中国の国内での建設・計画中の原子炉基数は,世界で最多を誇っている。この中国は,これまでは国内建設だけで手一杯であり,国外での建設は 4 基,計画は 1 基にとどまっているが,今後は,国内建設を維持しつつも,原子炉輸出を拡大させる方針である。両国の原子炉が新規原子炉導入国で受容される理由として,「日欧米に技術的に劣らないと見られる新型原子炉」,「経済的な発電コスト(建設コスト)」,「建設プロジェクトへの豊富な資金援助」などが挙げられる。これに加え,ロシアは,「建設から運転まで担う(BOO)方式による契約」,「燃料調達と使用済燃料処理の引き受け」を提案し,新規導入国の負担を軽減することにより,原子炉の輸出を拡大させてきた。
 ただし,ロシアの原子炉輸出は,このところ,導入国での地政学的リスクが顕在化し,ウクライナやトルコでの建設が一時中断に追い込まれるなどの問題が生じている。当然ではあるが,ロシアの提案する BOO 方式による契約やロシア製の燃料調達は,ロシアへのエネルギー依存度を増加させ,導入国の懸念となっている。
 現在,日本では,これまでの国内での原子力発電所の建設・運転経験を生かして,英国や新規導入国であるベトナムやトルコへの原子炉輸出を計画している。また,2015年12月,日本は原子力協定をインドと原則合意し,日本の原子力メーカーの受注獲得が期待されている。今後,日本ブランドの原子炉を海外輸出してゆくためには,ロシアや中国に見るように,政府による「プロジェクト支援の強化」およびメーカーによる「継続的な原子炉開発」が不可欠である。また,原子力発電事業者も,教育・訓練分野にとどまらない,導入しようとしている国への多面的なサポートが必要と考えられる。

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