会誌「電力土木」

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でんたん

第12回 紀伊半島 熊野の大自然と世界遺産に囲まれた那智発電所(関西電力株式会社)

 


 那智発電所は,紀伊半島南東部の和歌山県那智勝浦町に位置し1913年に運開,今年で103年を迎えた大変歴史のある水力発電所(186 kW)です。もともとは那智水力電気(株)が開発した電源で出力120 kW にて供給を開始し,その後 2 度の改良で現在の出力に増強されました。今日まで 5 社にわたって所有が変わっており那智水力電気から熊野電気,宇治川電気,関西配電と渡り,1951年に関西電力に引き継がれました。京の都に我が国初の事業用水力発電所「蹴上」が誕生してから僅か十数年後に熊野の地に那智発電所が建設され,初めて電気が送られた時の地域の方の喜びは大変だったようです。朝までカーボンランプを見つめる人や中には電灯にマッチの火で電気をつけにいく人もありで,電気の取扱いや危険防止のため社員は引っ張りだされ大忙しでした。
 那智発電所は,国名勝「那智の滝」の滝つぼに程近い下流にある「第一えん堤」と「陰陽の滝」の滝つぼ直下にある「第二えん堤」から取水,どちらも高さが約 3 m の流れ込み式えん堤で,コンクリートがまだ貴重な時代だっただけに第一えん堤はフィルダムで表面は乱積み自然石造,第二えん堤は切石積みフィルダムでコアが設けられていました※。この那智発電所の最大の特徴は,吉野熊野国立公園特別地域内の国指定天然記念物「那智原始林」や,日本ジオパーク認定「南紀熊野ジオパーク」など大自然に囲まれ,ユネスコ世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道(サンケイミチ)」の中に建つという立地特異性にあります。
 「紀伊山地の霊場と参詣道」は,仏教や修験道などの霊場である熊野三山(熊野那智,熊野本宮,熊野速玉)や高野山,吉野,大峯と,それらを結ぶ山深い参詣道(巡礼路)が1000年以上にわたって受け継がれ,自然と一体となった聖地であるとの高い評価により,平成16年 7 月にユネスコ世界文化遺産に登録されました。特に熊野三山に向かう参詣道は,「熊野古道」と呼ばれテレビや雑誌などでよく取り上げられるようになっています。この熊野古道は,平安時代中期ごろから始まった「熊野御幸」と呼ばれる法皇・上皇などの皇族や女院などの熊野詣(クマノモウデ)のために造られた道で,室町時代以降には武士や一般庶民の参詣が盛んになり,その様子は蟻の行列する様に例えて「蟻の熊野詣」と呼ばれるくらいの賑わいだったといいます。熊野詣象徴の那智の滝は,高さ133 m の日本三名瀑のひとつで熊野那智大社別宮飛瀧(ヒロウ)神社の御神体として祀られ,かつて高浜虚子が「神にませば まことうるはし 那智の瀧」と詠んだ御滝前にて毎年 7 月14日に日本三大火祭りの「那智の扇祭り(那智の火祭り)」が勇壮におこなわれます。
 那智発電所を包み込む紀伊半島・熊野の大自然と悠久の歴史を感じに,ぜひ聖地熊野三山にお越し下さい。
※H23年台風12号水害により損壊。H25年度コンクリート造で復旧。


【那智発電所】
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山
最大許可出力 186 kW
最大使用水量 0.295 m3/s
最大有効落差 83.38 m
営業運転開始 1913年 2 月 1 日

【アクセス】JR 紀勢本線  紀伊勝浦駅から車で約15分
熊野尾鷲道路 熊野大泊 IC から車で約60分
【写真】?第一えん堤(水害前) ?建設中の第二えん堤
?建設中の水槽    ?初代発電所建屋
?世界遺産 那智の滝  ?那智の扇祭り(那智の火祭り)
?世界遺産 熊野古道大門坂
?熊野地方郷土料理(上 さんま寿司 下 めはり寿司)

→次回の「でんたん」は北海道地方を探訪します。お楽しみに!

     
     
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