会誌「電力土木」

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解説

最 近 の 技 術 用 語 ◯144

 

ダムのゲートレス化
 利水ダムは,出水が予想される場合や出水時,ダム水位を定められた水位に保つ運用となっており,特に,集水面積が小さいダムの場合,降った雨がすぐにダムに流れ込むことから,迅速なダムゲート操作による対応が求められている。
 これに対して,ダムへの流入量の増減に合わせ,ダム水位を維持するため,その都度ダムゲートを細かく操作しており,多大な労力を費やすとともに,ゲート操作の回数の増加によりゲート,巻上機,操作盤等への負担が大きくなり,これら機器への悪影響も懸念されている。
 このような状況の中,最近,比較的小規模なダムでは,ダム管理業務の効率化を目指し,ダムゲートを取り外す「ゲートレス化」を行い,ゲート操作を行わず自然にダムから越流させるダムへの改修が増加してきている。
 なお,ゲートレス化にあたって,設計洪水流量の見直しが伴うことやダム天端の高さの設定によっては,「ゲートレス化」する前よりダム上流の水位が高くなることもあることから,それに対応した護岸や道路等の整備も必要となってくる。


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水圧破砕法
 水圧破砕法とは,坑井内に化学物質を含む水を高圧注入して地層に人工的に割れ目を作り,その中に砂などを充填して割れ目の閉塞を防ぐことで,石油や天然ガスなどの地下資源を採取するための流路を確保する手法である。
 本工法は1940年代後半から使われていた技術であるが,実施コストが高く,効果の予測が不確実という欠点があった。しかし近年の技術開発(水平坑井掘削技術,マイクロサイズミック等)によりコストが削減できるようになり,石油や天然ガス採取の採算性は飛躍的に向上した。
 北米では,頁岩層に含まれるシェールガス(天然ガス)の生産量が飛躍的に増加し,シェールガス革命(2013年)とまで呼ばれるようになった。
 一方で,水圧破砕法は化学物質を注入することから地下水の汚染や,大量の水を輸送することから,周辺地域の大気汚染等の可能性が指摘されており,フランスなど水圧破砕法を禁止している国もある。

参 考 文 献
JOGMEC 水圧破砕技術の歴史とインパクト
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/4/4370/201105_017a.pdf


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実用発電用原子炉及び核燃料施設等に係る新規制基準(新規制基準)
 東京電力福島第一原子力発電所の事故の反省や国内外からの指摘を踏まえて,原子力規制委員会が原子炉等の設計を審査するための新しい基準を作成し運用している。以前の基準の主な問題点としては,「地震や津波等の大規模な自然災害の対策が不十分であり,また重大事故対策が規制の対象となっていなかったため,十分な対策がなされてこなかったこと」,「新しく基準を策定しても,既設の原子力施設にさかのぼって適用する法律上の仕組みがなく,最新の基準に適合することが要求されなかったこと」などが挙げられている。今回の新規制基準では,これらの問題点を解消して策定され,「深層防護」を基本とし,共通要因による安全機能の一斉喪失を防止する観点から,自然現象の想定と対策が大幅に引き上げられている。自然現象以外でも,共通要因による安全機能の一斉喪失を引き起こす可能性のある事象(火災など)について対策を強化されている。シビアアクシデントを防止するための基準を強化するとともに,万一シビアアクシデントやテロが発生した場合に対処するための基準も新設されている。

参 考 文 献
原子力規制委員 新規制基準について
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/shin_kisei_kijyun.html


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ゼータ電位(ζ 電位)
 土砂の構成要素であるシルトや粘土といった微細な粒子(以下,微細粒子)は,水中においてフロックを形成し複雑な挙動を示す。また,フロックの形成は微細粒子の沈降特性に大きな影響を与える。例えば,一定条件下のダム貯水池では,微細粒子が沈降せず高濁度が長期間継続する濁水長期化が発生することがあるが,これは発生土砂に対する微細粒子の割合が多いことに加え,凝集・フロック形成が進まないことが一因と考えられる。この凝集メカニズムを検討するために有用な指標の一つとしてゼータ電位が挙げられる。
 水溶液中の土粒子表面は,粒子の表面電荷の影響によってイオンが吸着・帯電しており,粒子の表面近傍におけるイオン分布に影響をおよぼす。この影響によって粒子表面の周囲に電気二重層と呼ばれる,粒子の界面近傍外の溶液(バルク)中とは異なったイオンの分布が生じる(図1)。電気二重層は,粒子表面に最も強くイオンが吸着している固定層とそこから遠ざかる拡散層から形成される。固定層の境界に面している部分を Stern 面と呼ぶ。さらに,粒子が液中を移動する場合,すべり面と呼ばれる Stern 面よりも外側のイオンが一体となって動く限界の境界における電位がゼータ電位と定義される。ゼータ電位を用いることで粒子同士の分散または凝集の安定性を調べることができる。静水中では,粒子間に働く電気的な反発力(斥力)が粒子間の引力より大きい場合に粒子同士が凝集する。この現象を定量的に表現したのが DLVO 理論である。粒子同士のもつゼータ電位が同符号の場合,絶対値が大きいほど電気的斥力が大きく,結果として分散が安定する。粒子の凝集には,?外力を加え粒子間の距離を近づけることで粒子間の引力を増大させる,?バルク中のイオン濃度を変化させる,?異符号のゼータ電位を持つ粒子を添加するなどの方法がある。また,ゼータ電位は,粒子周辺の環境(液温,pH,有機物等)により変化し,スラリーの流動性などとも関係があることも報告されている。

参 考 文 献
1) 情報機構:ゼータ電位利用集,428 p, 2010.
2) 松本尚樹,小山智幸,伊藤是清:無機粉体スラリーを用いたコンクリートの流動性向上効果に関する研究:スラリーのゼータ電位とコンクリートの流動性に関する検討,九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門,pp. 103-109, 2006.


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図1 ダムのゲートレス化のイメージ(断面図)

図1 電気二重層とゼータ電位の概念図

     
     
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