会誌「電力土木」
講座
�盧� 雄也
独立行政法人産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 研究員
日下 博幸
筑波大学 計算科学研究センター 准教授
1. はじめに
前回までの連載では，数値気象モデルの概要を，力学モデルと物理モデルに分けそれぞれ紹介した。今回の連載では，数値気象モデルを用いて気象予測(気象シミュレーション)を行う際の注意点について述べたいと思う。
1980年代まで，研究者・技術者が領域気象の数値シミュレーションを行う場合，一般的に自ら数値気象モデルを開発しなければならなかった。しかし1990年代になると MM5(Dudhia et al. 1993)，2000年代になると Weather Research and Forecasting(WRF)モデル(Skamarock et al. 2005)をはじめとした高精度なコミュニティモデルがオープンソース化されていき，ある程度の計算能力を持つコンピュータとそれを使用できる知識があれば，自ら開発せずとも数値気象モデルを操作し，領域気象の数値シミュレーションが行えるようになった(数値気象モデルのユーザフレンドリー化，あるいはコミュニティ化)。この流れは近年加速し，数値気象モデルのユーザ数は以前より顕著に増加したように感じられる。ただしユーザ数の増加に対応し，あやうい使い方をするユーザが散見されるようになったようにも思う。著者の一人(�盧�)も数値気象モデルのユーザフレンドリー化の恩恵を受けた若手研究者の一人であるが，モデルを使用しはじめた当時(数年前)は，適切でない計算設定でシミュレーションを行い，さらにはその結果を誤って解釈した経験がある。現在でも，計算設定や結果の解釈には細心の注意を払うように努力している。
そこで今回の講座では，著者らの経験をもとに，数値気象モデルを使用し，実際に気象予測(気象の数値シミュレーション)を行う上において注意すべき点を紹介する。なお本講座では，読者が特定の地域を対象とすることが多い土木分野の研究者・技術者であることを考慮し，また紙面の都合上，数値気象モデルのうち領域気象モデルによるシミュレーションの注意点についてのみを述べる。なお本連載では，「気象予測」と「過去の気象の再現シミュレーション」を基本方針として明確に区分しない。この理由は，両者の違いはおもに領域気象モデルに与える初期値・境界値が予測値であるか解析値・再解析値であるか，の違いであり，シミュレーションを行う際の基本的な注意点は両者で共通しているからである。
ホームページ上では、「初回段落」のみを掲載しております。
