会誌「電力土木」

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巻頭言

公営電気事業の将来

 

倉重 有幸

公営電気事業経営者会議 専務理事

小生,昨年 5 月から公営電気事業経営者会議に勤務することになりましたが,公営電気事業は現在嵐の中で揺れている小舟の如きで,大変な状況の真っただ中である。
 公営電気事業とは,都道府県等の地方自治体が企業として小規模な発電事業をしており,電気事業法上は卸電力と位置付けられ,公営電気事業経営者会議全体で約240万 kw の出力になります。そのほとんどは,電力会社と長期契約を結び,電力会社に電気を供給している。しかしながら,現在国が積極的に進めている電力システム改革の影響を直に受けている。電気事業法の改正により,平成28年度からは「卸電力」という制度がなくなり,普通の発電事業者という位置付けになる。卸電力という枠組みがなくなると,現在締結されている長期契約は,地方公共団体と電力会社間の単なる「民―民」契約となり,契約の解約等は当事者間の協議に委ねられることになる。
 電気事業法の改正に関して,衆議院及び参議院では,「新規事業者の電源調達を容易にするため,・・・,地方自治体による電源の売り入札の促進・・・に向けて必要な措置を講じるものとする。・・・」との附帯決議がなされている。また,総務省からは,「地方公共団体が行う売電契約については,地方自治法の規定により,一般競争入札により締結することが原則とされている」旨,各都道府県等に通知が出されている。電気事業を所管している資源エネルギー庁は,公営電気が締結している長期契約を解約して一般競争入札に移行し易くするためのガイドラインの検討を行っている。(本号が出される頃にはガイドラインが出されているであろう。)
 この長期契約の解約には,大きなハードルがある。解約に伴う解約金です。長期契約は現在 5〜16年間の契約が多く,卸供給制度がなくなる平成28年度では,まだ相当長期の契約が残っております。長期契約による電気料金は,一般的には十円/kwh 以下が多く,現在の市場価格に比べるとかなり安い状況にある。これまでに長期契約の解約事例が 1 件だけある。東京都が知事の意向を受けて,6 年の契約期間を残している長期契約を解約し一般競争入札に移行しました。これに対して,東電は東京都から得られる電力を他の手段によって確保せざるをえなくなるので,その 6 年分の損害賠償として52億円を要求し,裁判になりました。最終的には,裁判所の調停によって約13億 8 千万円を東京都が東電に支払うことで決着しました。東京都の発電所は計3.65万 kw と比較的小さいのですが,公営には20万 kw 以上の発電所を所有しているところもあるので,東京都の事例から計算すると,相当大きな金額が必要と試算されるので,地方自治体としてはそう簡単に長期契約を解約することが難しい状況である。解約金を支払うためには議会の承認を得ることが必要で,大金を支払ってまで解約する意味があるのかどうかという追及が予想される。
 現時点では,長期契約に基づく卸電力の料金は市場価格に比べてかなり安いので,電力会社から長期契約を解約したいと言い出すことは考え難く,公営電気側が言い出さない限り一般競争入札の方向に向かうことは難しいであろう。
 公営電気事業は,現在安定的な経営が行われており,経営上の観点から現在の方式を変える必要性は出ていない。公営電気は,その性格上,利潤よりも安定経営を重視する傾向が強い。電気事業は何十年と続く長期の事業なので,将来の経営リスクがどうなるのかが重要な判断となる。その意味では,将来の電力市場の動向をどのように見通すのかが鍵となろう。将来現在停止している原発が順次稼働して行くと,電力供給設備が過剰気味となり,電気料金は低下傾向になるのではという見通しもあり得よう。短期的には一般競争入札によって利益が大きくなりそうだが,中長期的には電気料金の市場価格は不安定になることも考えられる。以上の状況を踏まえ公営電気事業は,今後どの道を選ぶべきか,決断が迫られている。もちろん,選挙で当選された知事の政策にも大きく左右されよう。
 国の政策に鑑み,公営電気事業として今後取るべき道は,以下の方向が考えられる。
   選択 1 長期契約方式を継続する
    〃  2 長期契約終了時点で,一般競争入札に変更する
    〃  3 長期契約を途中解約し,一般競争入札に変更する
    〃  4 とりあえず現行方式を続け,様子を見る
 公営電気事業としては,解約に伴う解約金の支払いについては議会の了承を得る必要があるため,解約金が高額となる場合には,議会への説明が難しくなるので,高額な解約金となる場合には一般競争入札への転換はそう簡単には進むことは考えにくい。最終的には公営企業管理者や知事の判断如何ではあるが,彼らがどのような判断を下すのか,難しいところである。とりあえずは,様子を見ながら・・・という判断になるのかも?

 小生,現在の公営電気事業経営者会議に来るまでは長く原子力に関わって来たので,以下最近の原子力問題についての感想です。(これは私個人の感想で,公営電気事業経営者会議とは何の関係もありません。)
 (1) 国の審査が遅い
   福島第一原発事故後,新しく厳しい安全基準を制定したことは当然ではあるが,その審査に時間がかかり過ぎです。昨年春には規制庁は原子力安全基盤機構(JNES)を吸収して新規制庁になったので,旧 JNES の人材を有効に活用すべきです。私の友人に旧 JNES から規制庁へ異動した者がおりますが,暇だと話しています。旧 JNES には原子力の専門家が多数いるので,彼らを有効に活用し審査の短縮化を図るべきです。
 (2) 規制委と原子力業界のコミュニケーションが良くない
   規制委の敷居が高過ぎて原子力業界と規制委のコミュニケーションが上手く取れていない。「原子力業界との癒着」を心配するあまりのことと思うが,現在はひど過ぎです。
 (3) 立証責任を転嫁している
   既設の原発への新規制基準の適合審査において,特に地質関係で設置者への立証責任の転嫁がひど過ぎではありませんか。報道によれば,規制委側は「不安」を表明するだけで,設置者側に対して「その不安を払拭するに十分な証拠」を要求していませんか?既設の原発は,先人の知見に基づき審査して合格とされたものなので,それを不合格とするには明確な論理的な根拠が必要でしょう。法律的には一旦許可されたものは既得権が認められ,過去の許可等の行政処分に遡及することはあり得ないが,原発の安全性の問題については特別に許されるでしょう。しかし,「NO」と判断するには,明確な根拠が必要です。漠然とした不安だけで不合格にするのにはやめてもらいたい。後で裁判になると,国側は負けますよ。不安に思うのであれば,オールジャパンで専門家を集め,足りなければ海外の専門家にも頼み,審査をお願いすべきでしょう。
 (4) 原発の再稼働が遅過ぎ
   国内の原発全てが停止して久しいが,これにより我が国は大変な影響を受けている。貿易収支の大幅な赤字,電気料金の大幅値上げ,温室効果ガスの増加など。これらを改善するためにも,1 日も早い再稼働を願う。

     公営電気事業とは (平成27年 1 月 1 日現在)
(法的位置付け)
 地方公営企業法に基づいて電気事業を行っている
(事業者数)
 26事業者(1 都 1 道 1 府22県 1 市)
  北海道,岩手県,秋田県,山形県,新潟県,栃木県,群馬県,東京都,神奈川県,山梨県,富山県,金沢市,長野県,三重県,京都府,鳥取県,島根県,岡山県,山口県,徳島県,愛媛県,高知県,福岡県,熊本県,大分県,宮崎県
(設備概要)
  (1) 水力発電所  発電所数288ケ所,出力231.7万 kw
  (2) 火力発電所  発煙所数 2 ケ所,出力3.7万 kw
  (3) 太陽光発電所 発電所数28ケ所,出力2.4万 kw
  (4) 風力発電所  発電所数10ケ所,出力3.7万 kw

     
     
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