ソリトン分裂

ソリトン分裂とは,非線形性と分散性の効果により,1つの波峰が多数の波に分裂する現象である。
  津波が遠浅の海岸を伝播する場合に発生することがあり, 1983年日本海中部地震において初めて確認された。この現象は,周期数分以上の津波の波峰から前面にかけて,風波と同程度の周期10数秒程度の波が現れて,波高が増幅し,その後急激に砕波するために,波力が大きくなることがある。
  津波のような水深に比べて波長が非常に長い波(長波)の運動は,通常,非線形長波理論(浅水理論)等によって表現され,津波波源から陸上遡上に至る津波伝搬の基本的な挙動を再現することができる。しかし,ソリトン分裂を起こした津波は,分裂後の波頂部が分裂前に比べて高くなることから,波数分散効果を考慮しないと,再現することは困難である。ソリトン分裂を再現するためには,非線形長波理論に分散項を加えた非線形分散波理論を適用する必要がある。
  なお,一般にソリトン分裂波を伴う津波が発生しても遡上時には砕波減衰が生じ得る。また,仮に過去に分裂しない津波に比べて高い痕跡高を残したとしても,その痕跡高を説明する断層モデルの設定で採用した基礎方程式と同じ方程式で再現計算する限りにおいては,分裂に伴う水位上昇は断層モデルのすべり量を大きめに設定することにより考慮している。したがって,少なくとも水位を論じる上では,ソリトン分裂を再現する分散波理論を導入しなくとも良いと考えられる。

参 考 文 献

1) (社)土木学会.水理公式集[平成11年版],1999,p.491.
   

2) (財)電力中央研究所.大陸棚上における津波のソリトン分裂と砕波に関する研究 研究報告.N05045,2006,p.1.
   

3) (財)沿岸開発技術研究センター.高潮・津波ハザードマップマニュアル.2004,p.101.
   

4) (社)土木学会 原子力土木委員会 津波評価部会.原子力発電所の津波評価技術,2002,p.1-43.
   



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