会誌「電力土木」

目次へ戻る

解説

最近の技術用語 (183) アンサンブル予測/バーチャル PPA/ミクスト・リアリティ(MR)

 

アンサンブル予測
 アンサンブル予測とは,いくつかの予測モデル(C1, C2, C3, ...)を組み合わせて物事を予測し,それらのモデルの予測結果に対して,多数決の原理に基づいて最終的な予測をするものです。
 数値予測結果には誤差が生じますが,誤差の原因は大きく 2 つに分けられます。ひとつは初期値に含まれる誤差が拡大すること,もうひとつは数値予測モデルが完全ではないことです。数値予測では,わずかに異なる 2 つの初期値から予測した 2 つの予測結果は,初めのうちはよく似ておりますが,その差は時間の経過とともに拡大します。これは,大気の運動にある特徴的な性質「初期値の小さな差が将来大きく増大する」というカオス(混沌)的な振る舞いのひとつです。実際の数値予測では,観測データの誤差や解析手法の限界から,初期値に含まれる誤差をゼロにすることはできず,時間とともに誤差が拡大することを避けることはできません。また,数値予測では,計算機の性能の限界により,ある大きさの格子を用いた近似式で気温や風等の予測計算を行います。このように近似式を使っていることからも,予測結果に誤差が生じます。
 上記のような誤差の拡大を事前に把握するため,「アンサンブル予測」を利用しています。アンサンブル予測では,ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用意するなどして多数の予測を行い,平均やばらつきの程度といった統計的な情報を用いて気象現象の発生を確率的に捉えることが可能となります。
 現在,アンサンブル予測は,防災気象情報,天気予報,航空気象予報,台風予報等に用いられ,ダム管理および発電電力量の増加等での活用が期待されております。

参 考 文 献
・https://axa.biopapyrus.jp/machine-learning/ensemble-learning.html
・気象庁
 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-3-8.html


*     *     *     *     *     *     *


バーチャル PPA
 バーチャル PPA(Virtual Power Purchase Agreement)とは,需要家が発電事業者と直接の契約を結び,実際の電力売買とは切り離された形で再エネ環境価値を直接移転する仕組みである。電力そのものについては,需要家(小売り事業者を介して)ならびに発電事業者が,それぞれの置かれた市場でそれぞれが売買を行う。バーチャル PPA は,電力と切り離して再エネ環境価値を移転させることが可能なため,需要地と再エネポテンシャルが豊富な地域が物理的に離れている場合でも再エネ開発を促進することが可能である。2019年にアメリカで締結された PPA 契約の80%以上をバーチャル PPA が占めており,再エネ拡大の大きな推進力となっている。また,物理的な制約が発生しないことから金融取引の性質を持つため,フィナンシャル PPA と呼ばれることもある。

参 考 文 献
日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)HP
 https://japan-clp.jp/archives/8445
Enel Green Power 社 HP
 https://www.enelgreenpower.com/our-offer/products-and-services/virtual-ppa
BNEF (2020), Corporate Clean Energy Buying Leapt 44% in 2019, Sets New Record
 https://about.bnef.com/blog/corporate-clean-energy-buying-leapt-44-in-2019-sets-new-record/


*     *     *     *     *     *     *


ミクスト・リアリティ(MR)
 ミクスト・リアリティ(MR)は,複合現実感とも言い,1994年にトロント大学の Milgram 教授が提唱した概念です。デジタルの仮想空間の中にあたかも存在するような体験をさせる仮想現実感(VR: Virtual Reality)に対し,現実空間をベースとし仮想データでこれを増強する AR (Augmented Reality)や,仮想世界を現実世界の生情報で強化する AV (Augmented Virtuality)という概念がありますが,Milgram 教授は,これらに境界はなく,現実空間にデジタル空間を整合させて重ね合わせることにより,被験者に両空間の情報を相互に補強し合った世界を提供するもの全体を,MR (Mixed Reality)と呼びました1)。
 MR に関する技術的課題として,
 ?空間的ずれの解消(幾何学的整合性),
 ?画質的ずれの解消(光学的整合性),
 ?時間的ずれの解消(時間的整合性)
があげられます。また,MR を構築するシステムの代表的なものには,
 ?光を透過する眼鏡(HMD など)に仮想環境の映像を重畳させる光学シースルー方式
 ?現実世界もカメラを通じて映像化し,ここに仮想環境の映像を重畳させるビデオシースルー方式
があります2)。
 デジタル技術の進展とともに,MR に関するこれらの課題も急速に解決されてきました。現在では,現実空間と仮想空間が正しい位置にシームレスに重ね合わされるような MR システムが商品化されるまでになっており,MR 用デバイスの小型化や AI との連携などの研究開発が盛んに行われています。
 建設分野においても,これらの MR システムと BIM/CIM モデルを連携させることによって,計画時の建物配置や部材干渉等の確認,施工時および検査時の部材の位置・寸法・種別の確認や設備の設置状況・接続状況の確認など,様々な管理・監理に MR が適用され始めています。

参 考 文 献
1) Milgram, P. & F. Kishino: A Texonomy of Mixes Reality Visual Display, IEICE Trans. Inf. & Sys., E77-D, 12, pp. 1321-1329, 1994.
2) 田村秀行,大田友一:複合現実感,映像メディア学会誌,Vol. 52, No. 3, pp. 266-272, 1998.


     
     
ページのトップへ