会誌「電力土木」

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解説

最近の技術用語 (181) 水素・燃料電池戦略ロードマップ/NETs(ネガティブエミッション技術)/放射光

 

水素・燃料電池戦略ロードマップ
 水素・燃料電池戦略ロードマップとは,水素社会の実現に向けて,官民の関係者の取組や目標などが示されたもので,2014年 6 月水素・燃料電池戦略協議会により策定されました。
 その後,水素基本戦略,第 5 次エネルギー基本計画及び Tokyo Statement(東京宣言)が策定,発表されたことを踏まえ,2019年 3 月に新たな目標設定や取り組みの具体化を行った「同改訂版」が策定されました。
 同改訂版では,2025年頃に燃料電池車の価格競争力をハイブリット車と同等まで引き上げ,SUV やミニバンなどのボリュームゾーン向けの燃料電池車を投入し,2030年までに80万台程度の普及を目指すものとしています。
 また,水素ステーションについては,2025年度までに320箇所を整備し,水素調達コストや整備費・運営費を削減することで2020年代後半には水素ステーション事業の自立化を目指すものとしています。
 このほか,水素・燃料電池戦略協議会では,水素基本戦略に掲げた目標を確実に実現するため,目指すべきターゲットを新たに設定(基盤技術のスペック・コスト内訳の目標)し,目標達成に向けて必要な取組を規定するとともに,有識者による評価 WG を設置し,分野ごとのフォローアップを実施することとしています。

参 考 文 献
水素・燃料電池戦略協議会(平成31年 3 月12日)「水素・燃料電池戦略ロードマップ〜水素社会実現に向けた産学官のアクションプラン〜」


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NETs(ネガティブエミッション技術)
 地球温暖化対策においては,エネルギーシステム等で CO2 を排出しないものに移行する変革は必要であるものの,どうしても CO2 を排出せざるを得ない産業プロセスが残ってしまうことも事実であり,カーボンニュートラルに向けては排出をゼロにする技術だけではなく,排出されたもの(排出せざるをえないもの)を除去する技術も必要である。その除去技術が総称してネガティブエミッション技術(NETs)と呼ばれている。
 そして COP21での合意(いわゆるパリ協定)においては,許容しがたい悪影響を回避するという観点から,「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて 2℃より十分低く保つとともに,1.5℃に抑える努力を追求する」とされ,そのためには「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を達成する」つまり今世紀後半以降においては CO2 をはじめとする温室効果ガスの新たな増加はゼロにすることが謳われた。我が国においても菅首相が2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すと宣言した。これらの実現のためには,NETs の確立が必須である。
 NETs には,化学工学的技術を使って大気中から CO2 を除去する方法と自然界の CO2 吸収を増大させる方法とに大別できる。前者としては,空気中の CO2 を人工的に直接分離回収する Direct Air Capture(DAC)が代表的で,後者としては植林,藻場造成等による海の植物への固定(ブルーカーボン),湧昇流・沈降流の促進,風化促進,Bio-energy with CCS(BECCS),バイオチャーの活用による農地土壌での炭素貯留などが挙げられている。
 ただし,現状ではいずれの技術においてもコスト,必要エネルギー量,土地利用や既存産業との競合,食糧生産や自然生態系への影響あるいは効率等のいずれかもしくは複数の課題を抱えており,課題解決のための技術開発が急がれるところである。

参 考 文 献
・経済産業省,文部科学省(2019):エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会 報告書
・内閣(2019):パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略 令和元年 6 月11日 閣議決定
・ica-rus(2014):ICA-RUS REPORT 2014(詳細版),地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究(環境研究総合推進費戦略的研究開発領域課題 S-10)(https://www.nies.go.jp/ica-rus/report/detail_2014/ica-rus_report_2014_detail_all.pdf)
・Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)ホームページ (https://www.icef-forum.org/jp/)


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放射光
 放射光とは,光速に近い速度の荷電粒子が磁力線の周りを円運動しながら進むときに放出される電磁波であり,『赤外線』『電波』等がある。放射光は,一般的な光源と違って全方位に対して光を放出するわけではなく,荷電粒子の速度が光速に近くなると,軌道の接線方向に光が集中するような特徴を持っている。
 放射光を使用すると,物質をナノレベルで観察することができ,これまで日本の放射光施設では,物質科学,生命科学,地球科学等の広範な分野で,数々の学術研究の成果が生み出されてきた。また,創薬や新材料開発等の分野では,放射光の産業利用が進められており,今や放射光施設は科学的・社会的・経済的課題の解決に資する欠かせない重要なツールとなっている。
 現在,東北大学青葉山新キャンパスへの次世代放射光施設の整備が進められており,この施設は科学技術研究に大きく貢献するのみではなく,新技術・新製品の開発や,施設周辺への産業集積などを通して,宮城県及び東北地方へ大きな波及効果をもたらすと考えられる。

参 考 文 献
・一般社団法人 東北地質調査業協会 協会誌「大地」No. 59


     
     
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